調査研究セクター

性問題行動ユニット

ユニットリーダー:藤岡 淳子
(大阪大学 人間科学研究科 / 人間科学部 教授)

性暴力に関わるアディクションは、物質へのアディクションやギャンブルへのアディクションとは異なり、被害者への悪影響が甚大であり、また身体暴力以上にジェンダーの問題が絡んでいて、立場によって意見の隔たりが大きい。

性犯罪の再犯防止教育に関しては、認知行動療法を中心としたプログラムが欧米で実施され、一定の再犯率低下効果を上げている。日本においても、類似のプログラムが、刑務所内および保護観察所に導入されている。しかし、世界の動向は、リスク管理として介入ではなく、当事者と環境のリソースの強化を目的する介入方法が注目されている。

特に、1994年にカナダで始まった“CoSA(Circle of Support and Accountability)”は、子どもに対する性犯罪の累犯・出所者を対象に、専門家の支援を受けた市民たちが“つながり”をつくり、当事者に対する支援の提供と責任ある生活を求めることで、高い再犯率低下効果を示している。日本でも、近年、ようやく、民間機関が主体となって、性暴力の治療教育プログラムを提供し始めているが、地域的には大都市圏に限られており、費用問題等、解決すべき課題は多い。

一般社団法人「もふもふネット」では、強姦・強制わいせつ・痴漢・盗撮等の性犯罪行動のために刑事裁判や少年審判を体験した男性が、再発防止のための個別またはグループのプログラムを受講している。そこでの課題は、性にまつわる暴力、支配関係の固定化、人を道具化する人間観の改善であり、本人への認知行動療法的介入のみならず、対人関係の持ち方、特に、親や妻子といった家族との関係の持ち方を修正していく必要がある。

「もふもふネット」では、親や配偶者とのつながりの確保、弁護士・矯正保護機関・児童福祉機関等との協力、医療機関・福祉機関・教育機関との協働などに心掛けながら、性暴力行動からの離脱と回復支援に関する調査研究と支援活動の社会的実装をめざす。再犯行動が低減すれば、被害者が減り、被害者の家族、加害者の家族か?暴力行動の影響を回避することに繋がる。

アディクションの根底には、ありのままの自分を受け入れられない関係性の持ち方から生じる過剰適応や、上に立つか・下に立つかの支配・被支配の関係性、自己と他者への不信感といったパーソナリティと対人関係の発達の課題がある。性暴力という問題は、「悪い個人」の問題というよりは、人間の成長のプロセスの問題であり、社会の問題である。対等で双方が満たされる性行動と、加害者が被害者に一方的に欲求を押し付ける性暴力との違いについて、共通認識をもち、根強い男性の「性」神話(言い訳)を、社会が一貫して退けられるようになることが重要である。

主な実施項目

  • これまでに実践してきた「もふもふネット」、大阪府性犯罪者登録支援制度、大阪府・市児童相談所の性問題行動治療教育プログラム、大阪市児童自立支援施設における性問題行動のある子どもの個別プログラム、刑務所出所者との集い(クマの会)などにおいて、特に複数の関係者が協働して支援した事例をまとめ、ネットワークの作り方や運営の仕方について知見を集積する。
  • これまでの経験と知見に基づき、担い手の育成・研修と、現存する民間団体とのネットワーク作りを進める。より多くの地域で相談窓口となるステーションを作る。
  • 英語圏における性暴力に対する先進的な治療的介入方法の現状と課題について調査研究を実施する。
  • 社会の人々に性行動と性暴力行動の違いについての理解を促進し、性暴力に対して一貫した態度と方針をとれるよう、様々な媒体を通して啓発活動を行なう。
  • 国内外の関連学会で成果を報告し、世界の性暴力からの離脱および回復支援のネットワークに参入する。これまでの性問題行動からの回復のための研究や実践の成果を踏まえた新たな回復支援プログラムを開発し、学会報告、学術論文、研究書物等を通じて成果を発表するとともに、回復プログラムの担い手を育成するための回復プログラムの研修カリキュラム・教材を開発し、研修等を通じてその普及に努める。暴力行動ユニットと共同して、大阪地区における“えんたく”を開発し、地域円卓会議として、この地域における社会実装をめざす。