生きづらさを抱えた「若いひとたち」の居場所づくりをテーマに、若年層に関わる支援者が集い“えんたく”会議を実施【ATA-net研究センター/犯罪学研究センター/社会的孤立回復支援研究センター】

ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたく”を活用

ポイント
● 龍谷大学は、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」を締結し、2020年度より事業を開始。
● 2020年度には、犯罪学研究センターの学術的知見をもとに、犯罪や非行をした人たちの実情や立ち直り支援の活動を伝えるハンドブックを発行。
● 2021年度から、オール京都で再犯防止を推進するための新たな基盤づくりを目標に、ATA-netが考案した討議スキーム課題共有型“えんたくを活用した研修の4回目を開催。生きづらさを抱えた若年層にスポットを当て、居場所づくりの課題を共に検討。

2016年の『再犯防止推進法』制定によって、地方自治体においても再犯防止事業に関する法令の整備および事業計画の策定が求められたことから、犯罪学者の協力が求められる機会が増えています。ATA-net研究センターにも複数の自治体から要請があり、研究メンバーが専門家として関与し、研究から得たエビデンス等の社会実装に努めています。
これらの活動を踏まえ、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」*1を締結し、2020年度には石塚伸一教授(龍谷大学法学部・ATA-net研究センター長)が監修者となり『“つまずき”からの“立ち直り”を支援するためのハンドブック』を発行しました。
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2021年度から「京都府再犯防止の推進に関する研修会」と題し、このハンドブックで取り扱った内容やハンドブックから着想を得て、研修会を開催してきました。今回は、「生きづらさを抱えた『若い人たち』の居場所づくり研修会」として、1月26日(木)に第4回目の研修会を行いました。
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今回は、龍谷大学深草キャンパス至心館1階、矯正・保護総合センター内のフリースペースにて、課題共有型“えんたく”会議を行いました。
府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、非行少年たちに関わる刑事収容施設職員、青少年の健全育成支援や非行防止に携わる団体関係者、本学学生の孤立対策に取り組む龍谷オープンコミュニティの学生など、多様な立場から約30名が参加しました。行政機関や地域社会において何ができるのか、「自分ごと」として一緒に考えて、理解を深めることを目的としました。


山口裕貴氏(ATA-net研究センター 嘱託研究員)

山口裕貴氏(社会的孤立回復支援研究センター・嘱託研究員)

研修の司会は、山口裕貴氏(社会的孤立回復支援研究センター・嘱託研究員)が担当し、ATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”*2を用いて実施しました。ここで共有された話題は、ファシリテーショングラフィックとして暮井真絵子氏(龍谷大学法学部・非常勤講師)がインターネットを利用してメモ共有サイトにまとめました。

はじめに、生きづらさを抱えた少女たちを支援している「京都わかくさねっと」*3の取り組みの一貫である「わかくさリビング」のスタッフが、「“わかくさリビング”とわたし」というテーマで、支援活動を行うに至った経緯や、具体的な活動内容等について利用者の声を交えながら紹介し、話題提供を行いました。次に、これまで若年層への支援や生きづらさを抱えた人々に多方面から関与してきたステークホルダーの代表者5名(研究者・子ども支援施設代表者、若者の活動支援団体事務局、少年鑑別所職員2名、京都府内自治体の更生支援相談員)が、組織上の立場だけではなく、それぞれの経験から得られた知見やエピソードを紹介しました。そこでは、若年層の生きづらさの要因やその発見過程、居場所や環境づくりの意義、支援を巡る問題まで多岐にわたり課題が共有されました。


課題共有型円卓会議“えんたく”のようす

課題共有型円卓会議“えんたく”のようす

つづいて設けられたシェアタイムでは、オーディエンスを含めたフロアの参加者全員が3人1組のグループに分かれて話し合いを行い、課題を共有しました。ここで話し合われた課題は、グループごとに画用紙にまとめ、フロア全体でその内容を共有しました。各グループでは、「何かを要求されない場所だからこそ、“自分はこうしたい”という意思が表れるのではないか」、「ただ美味しいものを食べる、作る時間も食べる時間も楽しく」、「居場所のマッチングアプリ」、「臨機応変な支援策を」、「被支援者のニーズにのみ応えていくこと」、「居場所を維持することの難しさ」、「支援者をサポートする環境も」などが話題に挙がったことがわかりました。ここでも、居場所の重要性や具体的な支援策やアイディア、支援の困難性について幅広く話し合われました。
会の後半では、ステークホルダーの代表者5名がそれぞれコメントを行い、約3時間におよぶ“えんたく”が終了しました。


シェアタイムのようす

シェアタイムのようす


シェアタイムで挙がったキーワード

シェアタイムで挙がったキーワード

“えんたく”終了後には、石塚伸一教授(龍谷大学法学部・ATA-net研究センター長)が今回の研修会を振り返り、次のように述べました。
「若年層への支援、特に子どもに対しては、接することのできる期間が限られている。加えて、生きづらさを抱えている人に寄り添うために、支援者が自分のなかの答えを探し求めるあまり、疲れてしまうことがある。あらゆる方策を実践しようとして課題を抱えこまないこと、あくまでも支援を求める人のニーズにのみ応えていくことが重要である。本日活用した討議スキーム“えんたく”のマニュアルを公開している。それを参考に、皆さんもぜひ職場などの課題共有の場面で実践してみてほしい。参加者には安全・安心であることを約束して、まずは3人1組だけで行ってもよいだろう。」と述べ、今回の“えんたく”を締めくくりました。


石塚伸一教授(本学法学部・ATA-net研究センター長)

石塚伸一教授(龍谷大学法学部・ATA-net研究センター長)

【>>Link】「えんたくトライアルのためのガイドライン 2020.09版」

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補注:
*1 犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定
2016年12月に成立、施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」においては、再犯の防止等に関する施策を実施等する責務が、国だけでなく地方公共団体にもあること(第4条)が明記されるとともに、都道府県及び市町村に対して、国の再犯防止推進計画を勘案し、地方再犯防止推進計画を策定する努力義務(第8条第1項)が課されました。この法律は、犯罪や非行をした人たちの社会復帰を支援するための初めての法律です。京都府では、2020年3月23日に龍谷大学と協定を締結し、庁内のすべての関連部局が連携し、再犯防止施策を推進していくこととしています。 参照:京都府HP

*2 課題共有型円卓会議“えんたく”
アディクション(嗜癖・嗜虐行動)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、その当事者の回復を支えうるさまざまな状況にある人々が集まり、課題を共有し、解決に繋げるための、ゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの場が必要です。石塚教授が代表をつとめる研究プロジェクト「ATA-net(Addiction Trans-Advocacy network)」では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を“えんたく“”と名づけ、さまざまなアディクションからの回復支援に役立てることをめざしています。 地域円卓会議と呼ばれる討議スキームは、その目的によって、問題解決型と課題共有型に分かれます。また、参加主体によって、当事者(Addicts)中心のAタイプ、当事者と関係者が参加するBタイプ(Bonds)、そして、協働者も加わったCタイプ(Collaborators)の3つに区分され、今回は府庁内および京都府下の自治体の関係部局担当者をはじめ、矯正施設職員、保護観察官、保護司を含むボランティアなど、受刑者の社会復帰に携わる多様な関係者を交えて、課題共有型・Cタイプ(Collaborators)の“えんたく”を行いました。

*3 京都わかくさねっと/わかくさリビング
 家や学校、地域にも居場所がないような、生きづらさを抱える少女たちを支援するために、作家の瀬戸内寂聴氏、元厚生労働事務次官村木厚子氏らによって、全国ネットワーク「若草プロジェクト」が立ち上げられました。京都わかくさねっとは、同プロジェクトに賛同し、「すべての少女たちが自分らしく心豊かに生きる社会」を目指して2016年より活動しています。 京都わかくさねっとの活動の一つである、わかくさリビングでは、「いつでもふらっと来て、お話したり、ご飯を食べたり、学んだり。多様な人と触れ合える場」をコンセプトに、気軽に集まって、自由に過ごせる居場所の提供を行っています。 参照:京都わかくさねっとHP