龍谷大学ATA‐net研究センター キック・オフ・シンポジウム 第1部レポート【犯罪学研究センター共催】 動きはじめた世界の薬物政策 いま、なにが問われているのか?

2020年1月25日 龍谷大学にて、「動きはじめた世界の薬物政策」と題し、薬物政策問題の第一人者であるイーサン・ネーデルマン(Ethan A. Nadelmann)氏を迎え、「薬物使用と非犯罪化 ―再使用と回復支援」について講演いただきました。

イーサン・ネーデルマン氏は、はじめに科学的な知見がどのように薬物政策に変化をもたらしたのかについて説明し、その後に世界的な動向、特にオランダにおける薬物政策である“ハーム・リダクション”の重要性について述べました。人は有史以前より体内に様々な物質を服用して生活を営んできました。現在、お酒とタバコは合法であるけれども薬物は違法です。ネーデルマン氏は、「薬物を違法化してきたここ100年の政策は、闇市場における薬物取引を盛況にさせ、かつ、流通している違法薬物の品質が粗悪であるゆえに被害を深刻化させてきた」と説明しました。違法薬物とされる大麻と合法的に入手できるタバコやお酒はこの点において大きな違いがあります。しかし、科学的な知見によれば、健康被害をもたらす度合いは、大麻よりもお酒やタバコの方が深刻であるとされています。ネーデルマン氏は、「薬物は管理しながら安全に使用できる状況にしなければならない」と主張します。世界的な動向として、薬物の危険性よりも薬物がもたらす利益に目が向けられ始めているのです。注目されているのは、さまざまな難病の症状を緩和するために医療目的で大麻を使用することです。これらは科学的エビデンスに基づいて行われています*5。たとえエビデンスがあり医療的に有効であったとしても、文化的・宗教的な背景を理由に、薬物は道徳的な観点から違法でありつづけるかもしれません。しかし、「このような状況と世論は変えていくことができる」とネーデルマン氏は述べました。オランダにおける薬物政策の転換は、法律で禁止しても違法薬物使用者が減らないことから試みられました。「法律違反者に対する刑罰的制裁」から「依存症を患っている人への福祉的・医療的なサポート」へという転換です。その転換はオランダの経済、社会状況にも好影響を与え、その結果として、ヨーロッパにおいて“ハーム・リダクション”が注目されるようになりました。薬物に依存している人が抱えている問題をどのように解決していくのか、その人が受けている害をどれだけ和らげることができるのか、それが“ハーム・リダクション”の姿勢です。ネーデルマン氏は「個人がより良い生活を送れるように寄り添う政策が必要だ。薬物政策は、科学、思いやり、健康、そして人権を重んじたものでなければならない」と強調し、講演を終えました。

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