【開催レポート】オール京都で再犯防止に取り組む!支援者が集い第2回えんたく会議を実施

【ポイント】
● 龍谷大学は、2020年3月23日に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」を締結し、2020年度より事業を開始。
● 2021年3月には、犯罪学研究センターの学術的知見をもとに、犯罪や非行をした人たちの実情や立ち直り支援の活動を伝えるハンドブックを発行。
● このたび、オール京都で再犯防止を推進するための新たな基盤づくりを目標に、ATA-netが考案した討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”を活用した研修の第2回目を開催。

2016年の『再犯防止推進法』制定によって、地方自治体においても再犯防止事業に関する法令の整備および事業計画の策定が求められたことから、犯罪学者の協力が求められる機会が増えています。当センターにも複数の自治体から要請があり、研究メンバーが専門家として関与し、研究から得たエビデンス等の社会実装に努めています。
これらの活動を踏まえ、2019年度に京都府と「犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定」*1を締結し、2020年度には石塚伸一教授(本学法学部・犯罪学研究センター長・ATA-net研究センター長)が監修者となり『 “つまずき”からの“立ち直り”を支援するためのハンドブック』を発行しました。
【>>関連News】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-8272.html

2021年10月6日、このハンドブックで取り扱った内容をもとに、「令和3年度 第1回京都府再犯防止の推進に関する研修会」が京都テルサ(京都市南区)において開催されました。
【>>関連News】https://www.ryukoku.ac.jp/nc/news/entry-9350.html

そして、2022年2月28日、このハンドブックから着想を得て同研修会の第2回目が京都テルサ(京都市南区)において開催されました。

「生きづらさを抱える人の回復支援」と「生きづらさを抱えた子どもの成長」をテーマに発達障害などの生きづらさを感じている人と関わっている当事者の体験談をもとに “えんたく”方式を用いた対話式の研修を実施する。
今回は、再犯防止の取組の視野を広げるため、府庁内の関係部局担当者をはじめ、市町村再犯防止施策や福祉部局担当者、少年院・少年鑑別所職員、保護司、児童相談所職員、少年のサポートを行う学生ボランティアなど約20名が参加しました。今回は、「『生きづらさ』を抱えている人が逸脱行為をしないようにするにはどのような支援が必要か」、「再度の逸脱行為を防ぐには何ができるか」をテーマに話題共有を行いました。組織上の立場だけではなく、個人の感性でご発言いただき、理解を深めることを目的としました。

研修の講師は、石塚教授と山口裕貴氏(ATA-net研究センター・嘱託研究員)が担当し、ATA-netの研究活動で培ってきた討議スキーム・課題共有型円卓会議“えんたく”*2を用いて実施しました。ここで共有された話題は、ファシリテーショングラフィックとして暮井真絵子氏(ATA-net研究センター・リサーチアシスタント)がホワイトボードにまとめました。

石塚伸一教授(本学法学部)
石塚伸一教授(本学法学部)
山口裕貴氏(ATA-net研究センター 嘱託研究員)
山口裕貴氏(ATA-net研究センター 嘱託研究員)

はじめに、少年鑑別所で少年に携わる精神科医が「生きづらさを抱えるひとへの回復支援にかかる課題」について話題提供を行いました。次に、これまで生きづらさを抱えるひとたちに多方面から関与してきたステークホルダーの代表者5名(当センター長,社会福祉士,市町村再犯防止施策担当課 職員,都道府県再犯防止施策担当課 職員,医療少年院関係者)がそれぞれの経験から得られた知見やエピソードを紹介しました。その際に確認されたキーワードは、「粘り強く接する」、「信頼関係の構築」、「世間体への同調圧力」、「自分自身が生きづらい」、「地域のひとたちによる支え」、「オーダーメイド型の支援」というものでした。とりわけ、発達障害を抱えた少年は、学校など日常生活を送るうえで様々な「しんどさ」を感じ、それが非行というかたちで発露するケースがあること、また、成人であっても適切な支援を受けられず、その生きづらさゆえに犯罪を行うひともいることが指摘されました。そして、これらのひとには、専門家によるアセスメントや矯正教育のみならず、福祉関係者による支援、地域住民による見守りなど、多角的な支援のあり方が示唆されました。

つづいて設けられたシェアタイムでは、オーディエンスを含めたフロアの参加者全員が3人1組のグループに分かれて話し合いを行い、課題を共有しました。ここで話し合われた課題は、グループごとにそれぞれ画用紙にまとめられ、さらにフロア全体で内容を共有しました。そこでは、大きく分けて「そもそも生きづらさとは何か」、「支援のあり方」をテーマに話し合われたことがわかりました。具体的には、「生きにくさとはそもそも誰の視点か」、「“普通に生きてほしい”という支援する側の思いなのか」、「非行や犯罪は、生きづらさを抱えるひとが “世間体”に当て込まれ、そこに適応しようとした結果」であることや「生きづらさにもいろいろな種類があるため、支援のあり方も様々である」、「困っているひと≒困ったひと(支援が必要でも求められない)」、「従来の支援にとらわれず、アップデートしていく必要性」、「支援者への支援の重要性」などが話題に挙がりました。また、上記テーマについて、教育現場や女性特有の生きづらさを中心に話し合ったグループもありました。
会の後半では、話題提供者1名とステークホルダーの代表者5名が振り返りコメントを行い、約3時間におよぶ“えんたく”が終了しました。

司会進行をつとめた山口研究員は、研修会全体を振り返り「共有された意見や課題は、皆様それぞれの職場でもぜひ共有していただきたいと思います。また、本日の“えんたく”を通じて出会った皆様がゆるやかに繋がり、その繋がりや知見を支援の現場で活かしていただければ」と期待を込めて述べました。

課題共有型円卓会議“えんたく”のようす
課題共有型円卓会議“えんたく”のようす
シェアタイムで挙がったキーワード
シェアタイムで挙がったキーワード

閉会にあたって、石塚教授は「本日行ったのは、課題共有型円卓会議です。まさに課題を共有し合うことが目的ですので、結論を出す必要がありません。皆様どうぞこのあとも、引き続き考えてみてください。帰宅して、ここで話し合われたことを思い返す。相手の心と体を長い時間その話題で充たすことができたら、良い共有ができたといえるでしょう。」と総括しました。

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補注:
*1 犯罪のない安心・安全なまちづくりに関する協定

2016年12月に成立、施行された「再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)」においては、再犯の防止等に関する施策を実施等する責務が、国だけでなく地方公共団体にもあること(第4条)が明記されるとともに、都道府県及び市町村に対して、国の再犯防止推進計画を勘案し、地方再犯防止推進計画を策定する努力義務(第8条第1項)が課されました。この法律は、犯罪や非行をした人たちの社会復帰を支援するための初めての法律です。京都府では、2020年3月23日に龍谷大学と協定を締結し、庁内のすべての関連部局が連携して、2023年度までに再犯防止施策を推進していくこととしています。
参照:京都府HP https://www.pref.kyoto.jp/anshin/news/kyotei.html

*2 課題共有型円卓会議“えんたく”
アディクション(嗜癖・嗜虐行動)からの回復には、当事者の主体性を尊重し、その当事者の回復を支えうるさまざまな状況にある人々が集まり、課題を共有し、解決に繋げるための、ゆるやかなネットワークを構築していく話し合いの場が必要です。石塚教授が代表をつとめる研究プロジェクト「ATA-net(Addiction Trans-Advocacy network)」では、この「課題共有型(課題解決指向型)円卓会議」を“えんたく“”と名づけ、さまざまなアディクションからの回復支援に役立てることをめざしています。
地域円卓会議と呼ばれる討議スキームは、その目的によって、問題解決型と課題共有型に分かれます。また、参加主体によって、当事者(Addicts)中心のAタイプ、当事者と関係者が参加するBタイプ(Bonds)、そして、協働者も加わったCタイプ(Collaborators)の3つに区分され、今回は市町村再犯防止施策や福祉部局担当者、少年院・少年鑑別所職員等を交えて、課題共有型・Cタイプ(Collaborators)の“えんたく”を行いました。