理論構築サークル

デジスタンス研究会

中村 正
(立命館大学 応用人間科学研究科 / 産業社会学部 教授)

アディクションは、問題行動や逸脱行動として、司法の問題と位置づけられることが多い。しかし、現実の課題は、再犯防止だけではなく、回復の支援の支援であることが多い。近年、「距離をおく」「離脱する」という言葉を起源とする「デジスタンス(desistance)」論が台頭している。この理論は、再犯のリスクの「更生」理論ではなく、当事者の問題行動・逸脱行動の背後にある非犯罪的ニーズ(人間的ニーズ)に焦点を当てるアプローチである。

実務の現場では、すでに、依存や嗜癖が止まっているという状態だけでは真の回復といえず、当事者がその人らしい生き方を実践することこそ回復であるとの認識が生まれはじめている。回復の途上にある当事者は、まさしくデジスタンスの過程にあるといえる。

本研究会では、コミュニティの位相において、人間的ニーズを満たすことで可能となるデジスタンスの諸相を把握し、理論化する。回復のための当事者グループ、就労の継続がもつ意味、余暇や文化活動の実態と効果、孤立からの脱出の手段と機会、重要な他者の形成の仕方等に焦点をあてることでリスク管理中心の更生ではない「もうひとつの回復の道」を探る。

主な実施項目

  • 内外のデジスタンスに関連する理論と実践を調査検討する。
  • 各ユニットで組織されている事例をデジスタンス概念から再把握し、ケースとして蓄積する。
  • デジスタンス概念とグッド・ライフ・モデル論の観点から調査検討を実施する。
  • 更生過程論として体系化し、介入後支援に必要なことをまとめ、支援者・支援論として整理し、縦割りになりがちな支援者の視野をデジスタンス論によって拡大する。