理論構築サークル

治療的司法(TJ)研究会

指宿 信
(成城大学 法学部 教授)

米国では、「1980年代半ばに始まった厳罰主義の刑事政策が人種間の不平等と過剰拘禁という悲惨な結果をもたらした」という反省から、薬物等の乱用者を、単に処罰するのではなく地域社会の問題の解決という視点から、刑事司法を見直そうという動きがはじまった。

まず、1987年、フロリダで「ドラッグ・コート(drug court)」という薬物専門裁判所か?開設された。これらは、「問題解決裁判所(problem solving courts)」と総称される新たな裁判所を生み出した。法理論も、これに呼応するようなかたちで、D・ウエクスラー等によって「治療法学(Therapeutic Jurisprudence)」という新たな思潮が提唱され、世界各国に広がっていった。この思潮を具現化した司法制度を「治療的司法(Therapeutic Justice)」という(以下、治療法学と治療的司法を併せて「TJ」という。)。

本研究会では、TJの理論と実践を比較検討し、治療法学の思想を社会に根付かせることで、依存や嗜癖の問題に悩む当事者や回復支援者をエンパワーメントすることをめざす。

日本の刑事政策の解決すべき喫緊の問題は、高い再入率・再犯率と刑事施設における高齢者や各種の障がい者の割合を下げることである。日本にTJの理念と哲学が浸透し、刑事司法の役割を地域社会の抱える諸問題の解決に向ける視点が普及して依存・嗜癖行動に柔軟に対応することになれば、高い再犯率・再入率と刑事施設の高齢化という問題の解決に資することが期待される。さらには、社会内に存在する多様な民間セクターの潜在的能力が活性化され、重層的で有機的な再犯防止と更生支援の体制を構築するための基盤が形成され、具体的な政策を提言することが期待できる。

主な実施項目

  • 米国における多様な「問題解決型裁判所」の類型と手続、アディクション対策との関係を調査研究する。
  • 海外のTJを主唱する研究者・実務家と連携して、「治療法学」理論動向を調査研究する。
  • 日本において、「治療的司法」理論を応用した実務と政策について、全国調査研究を実施する。
  • すでに活動を始めている「治療的司法」理論の刑事弁護活動への応用についての調査グループを拡充して、理論と実務を架橋する研究活動を展開し、セミナーや研修を開催して、TJ弁護の普及に努める。