2022年2月8日、龍谷大学犯罪学研究センターとATA-net研究センター共催で、第12回ティーチイン「大麻取締法違反裁判〜大薮大麻裁判〜その違法性や有害性とは? 妥当な刑罰とは?」をオンライン開催し、約80名が参加しました。講師に、大薮龍二郎氏・長吉秀夫氏(作家・プロデューサー)・丸井英弘氏(弁護士)をお招きし、現在前橋地方裁判所に係属中の裁判についてご報告いただきました。
第12回ティーチイン
第12回ティーチイン実施風景
目次
1.大薮裁判について
2.大薮氏の胸中について
3.弁護方針について
4.さいごに

 

1.大薮裁判について
まず、長吉氏より大薮氏の裁判(以下、「大薮大麻裁判」)に至る経緯についてお話しいただきました。
「事件の発端は2021年8月8日、群馬県での焼物(陶芸)のイベントの帰り道、大藪氏が運転に支障をきたす程の眠気を感じたため路側帯に車を停めて仮眠していたところ、近隣住民の通報によって任意の事情聴取を受けたことでした。車内から植物片が見つかり、簡易鑑定の結果、THC成分が検出されたため、その場で逮捕されました。同年10月26日、前橋地方裁判所において第一回公判が行われました。
本件で注目すべきは、大薮氏が罪状認否を保留した点にあります。長吉氏は、この点について、「他の大麻裁判とは性質を異にする注目すべき裁判です。」と大薮大麻裁判について述べられました。
長吉秀夫氏(作家・プロデューサー)
長吉秀夫氏(作家・プロデューサー)
2.大薮氏の胸中について
次に、大薮氏より裁判の中での胸中についてお話しいただきました。
大薮氏は「私は縄文をテーマに焼物を創作しています。創作の過程で毎日のように触れる必要な道具として麻(大麻)を使用しており、作業をしていく上で大麻と向き合うことは重要なことです。縄文時代に作られていた焼物を遡って調べてみると、大麻草はとても重要な道具であり、日本においては、横綱の綱だとか、神事に用いられる縄にも大麻草が使われています。そのような大麻草が虐げられることはおかしいと感じ、また人権にも関わる深い問題だと感じています。今回の裁判で検察が主張するように大麻が悪いものであると認めてしまうと、これから仕事をしていくことができないと感じています。公判の場で大麻草の真実について最新の情報をアップデートして欲しいという願いを込めて裁判に臨んでいます。」と胸中を語られました。
大薮龍二郎氏
大薮龍二郎氏
3.弁護方針について
続いて、大薮氏の弁護人である丸井弁護士より、大薮大麻裁判での弁護方針についてお話ししていただきました。
「基本は大薮氏の主張を大事にしています。弁護方針は、大まかに①大麻取締法の違憲(適用違憲*1) ②大麻取締法の生物多様性条約違反 ③証拠能力(捜査の違法性・鑑定の信用性)の3点を主張し争う予定です。
証拠能力に関して、捜査の違法性については、常に意識し違法な捜査が疑われる場合は他の事件においても主張してきました。本件では証拠能力に関し、捜査の違法性以外にも鑑定の信用性についても主張します。これは今までにない試みです。植物片の鑑定書には大麻取締法 第一条*2に規定されている『カンナビス・サティバ・エル』が検出されたとは書かれておらず、鑑定方法・鑑定書の信憑性についても争い、大薮氏の主張に沿う弁護をしていきます。」と述べられました。
4.さいごに
さいごに、参加者からの質問を交えた議論が行われました。日本における刑事裁判では、やみくもに弁護人請求証拠が不同意にされる一方で検察側の証拠や証人はその多くが認められるなど、フェアではない現状があることが指摘されました。また、参加 者からは日本のメディアが大麻(薬物)裁判に無関心であることも問題であり海外メディアに訴えかけて日本の薬物問題の現状を世界へアピールすることも必要ではないかといった意見が出されました。大薮裁判にて証人申請中である園田寿氏(甲南大学名誉教授・弁護士)、正高佑志氏(医師・Green Zone Japan 代表理事)からも「日本における大麻の考え方は世界に遅れをとっている」といったコメントが寄せられ、盛会のうちに終了しました。なお、現在、登壇者の長吉 秀夫氏が発起人となり、前橋地方裁判所 刑事第1部 水上周裁判官に宛てたオンライン署名活動が行われています。
【公正中立な大麻裁判を望みます! 現在の大麻裁判では弁護側の証拠のほとんどが採用されません。検察と弁護側が平等に議論できる裁判を求めます。】
https://bit.ly/34IBvTq
用語説明
*1 適用違憲:法令の規定に対する合憲性の審査において、その規定を文面上違憲と判断することはしないで、当該訴訟・事件における法令の規定の適用の仕方が違憲であると判断することをいう。
*2 大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)
【第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。】
詳細は、下記を参照のこと。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000124