第8回ティーチイン「大麻取締法という人権侵害をいつまで続けるのか?」
1、大麻に関する高樹沙耶さんのご経験
2、高樹沙耶さんと石塚伸一教授の対談(一部抜粋)
3、質疑応答(一部抜粋)
– (1)大麻の将来性について
– (2)大麻の非犯罪化について
高樹沙耶:私は24年くらい前に、イルカは人を癒せるかという番組でオーストラリアに行って、先住民の方にお会いしました。その時に先住民の方が、「みんな今地球にあるものを自分のものにするので忙しいけれど、地球はいま人類がみんな食べていけるだけの食べ物をあたえてくれているのにね」ということをおっしゃり、私は、「地球と共存する生き方」のようなものを、先住民の方の視点から教わりました。その時私は女優で、様々な欲望をもっていたので、その話はとても衝撃的でした。そして、これまで、周りの人たちから教わる機会がなかったことなので、なにか自分の「目覚め」のようなものがありました。私はその時から、地球と共存する生き方とはどのようなものか、模索しはじめました。当時はすぐにその考えにたどり着いたわけではなく、イルカセラピーをしたいという方向でハワイに行き、フリーダイビングをしたりしていました。しかし、結局もう一度日本に戻り、改めて地球と共存する生き方というのを探しました。その際に、私は、地球と共存する暮らしをしていた江戸時代の暮らしにたどり着きました。そこで大麻というものに出会いました。当時私も大麻は有害なものだと刷り込まれていましたが、調べていくにしたがい、今までの大麻のイメージは、事実とは全く異なるものだと気づきました。さらに、未来の持続可能な暮らしというのを考えた結果、将来的に大麻は必要になるものであろうと思い、たくさんの人たちに理解をしていただくという活動を始めました。これが、私が大麻の活動を始めたきっかけです。
高樹沙耶:私は、2012年くらいから出版やインターネットを通じて、大麻に関する活動していました。そのような中で私は、2015年冬頃に知人から、政治に出ませんかとお誘いいただきました。その当時、ある国会議員の方が新党を立ち上げていらして、大麻のことを公言してくださるということでした。私が出ることによって、医療大麻など、大麻のことに関して、多くの方の心に引っかかるのではないかと考え、2016年に出馬させていただきました。そして、その年の10月25日に大麻の共同所持で逮捕されました。その時私は、地球と共存する生活とはどのようなものなのか、公言をするだけではなく自分でやらなければ説得力もないと考え、石垣島に移住して施設を作り、山から水をひき、化石燃料を使わない生活などをしていました。その施設づくりは、大麻検証委員会というものを作られている団体の代表の方と、彼の土木の会社の部下の方たちや、私に賛同してくれた仲間の男性たちが手伝ってくださっていたので、私は彼らと一緒に住んでいました。その際に、その代表の方は狭心症を患っておられたのですが、自身が大麻の活動家であるので、病院の世話にならずに、大麻による治療を自分で行いたいということで、彼の大麻は、私も住んでいる家に置いてありました。その結果逮捕されました。
高樹沙耶:例えば、カップルで逮捕される場合、男性の方が、自分のものですと言った場合は、女性の方は不起訴になるというケースが多いのですが、私の場合は、残念ながら共同所持ということで、懲役1年、執行猶予3年という判決が出ました。
当時は、まさか自分が逮捕されなど全く考えておらず、弁護士さんとのお付き合いもなかったので、戦い方が分かりませんでした。最初、弁護士の方は、「これは不起訴をとれるかもしれない」という話をしてくださったのですが、結局そうはなりませんでした。準備の不足もあって残念な結果になってしまったことを、今でも後悔しています。しかし、この出来事がきっかけで「医療大麻」という言葉がテレビで話題になり、多くの方がそこに引っかかってくださったということは、頑張ったかいがあり、一つ貢献できたところではないかと考えています。また最近では、病気になってしまった方やコロナがきっかけでWHOや医療についてなど、いろいろと調べた方たちが大麻というものに出会い、意識が変わるということがとても多く、本当に頑張って良かったと冷静に思えるようになりました。
高樹沙耶:私が長期間の勾留と裁判を終えて自分の家に帰ったとき、世界は全く変わっていました。今までとは異なる露骨な目を向けられ、ネット上では尋常でない量の誹謗中傷の言葉を浴びました。また、私は今まで女優をやってきたのですが、人前で話したり、イベントで司会者をするなどの機会も完全に絶たれてしまいました。現在では、逮捕直後の当時に比べて減ってきてはいますが、未だに私を表に出してはいけない、「隠して黙らせておけ」というような空気感があるので、私の活躍する場所は、今でもほとんど無い状態です。そして本当に残念なのは、やはり私が時々前に出ると、「お前が言っても説得力がない」や、「逮捕された女が言うな」などと言われる状況が、引き続き続いているということです。ですので、今回のテーマでもあります「人権侵害」という意味で、日本では、大麻に関してひどい人権侵害が行われ続けているのではないかという風に考えています。
現在、新型コロナウイルスという私たちが経験したことのない大変な状況の中で、外国では、リラックスできるということで大麻の使用量がとても増え、また、アメリカの大麻市場の株が急激に上昇するという現象も起きています。先日、矢部武さんという方から送っていただい本『世界大麻経済戦争』には、アメリカにおける大麻の一番新しい情報が書かれていますので、興味のある方はぜひ見ていただきたいと思います。私のブログの方にも、私がおすすめする大麻の面白い本やためになる本、映像なども載せてありますので、ぜひそちらの方もまた観ていただけたらなと思います。ぜひチェックしてください。
2、高樹沙耶さんと石塚伸一教授の対談(一部抜粋)
石塚伸一:裁判の前に何か情報はありましたか?
高樹沙耶:私は全く分かりませんでした。しかし、逮捕の原因となった大麻は私のものではなかったので、私が買ったり作ったりっていう、そういう場合は不起訴になるのが90%だという話を聞いていたので、少し高をくくっていたというか、安心していたというか、わきが甘かったところはあると思います。
石塚伸一:法律家の感覚的として、普通の大麻使用事件というのは使用と所持があり、日本では、大麻の所持は処罰されるけれども使用は処罰されないという変わった法律になっています。これは、大麻を自分で吸うことではなく、大麻を使って何か作ることや、何かをすることがいけないという法律であり、大麻の工作の禁止から始まっているということです。そのような中で、一緒にいた人が持っていたからといって処罰はされません。覚せい剤の場合は誰かと一緒に使うと使用罪の共犯になりますが、大麻は扱いが違います。
高樹沙耶:当時、選挙に出たというのも大きなポイントだったと思います。万が一あの状況の中で私が不起訴になってしまうと、その後、使用は別に悪くないのだろうと考える人が増えるのではないかと恐れ、そのような前例を作ってしまうのはマイナスだと考えられたのではないかと思います。
石塚伸一:選挙に出る時くらい周りに参謀でも法律家とかつけておくべきではないですか?
高樹沙耶:逮捕されたとたんに、みんなが蜘蛛の子を散らすように私から去っていったような悲惨な状況でした。応援するよと言っていた周りが全員知らぬふりで、私はもう留置場に入れられているので、誰ともお会いすることができず、もうどうしようもない状況でした。
石塚伸一:接見禁止がついていましたよね?
高樹沙耶:もちろんです。証拠隠滅の恐れがあるということで、接見禁止にされ、親とすらも連絡取れませんでした。
石塚伸一:令状が出たのが不思議です。
高樹沙耶:2か月くらい、マトリ(麻薬取締官)の方たちが私の家のそばに空き家の住宅を借りて、チームを組んでずっと見ていたようですね。
石塚伸一:そうするとやはり、選挙に出たことで社会的注目を集めたということですね。使用などが合法化されたとすると、背後にそこから利益を得ようとする人たちもいるでしょうね。
高樹沙耶:おそらく基本的には、アメリカからダメだといわれていますよね。そして日本自らそれを拓くのは不可能と思っていらっしゃる政治家の方や企業の方ばかりなので。そういう意味では、万が一そういう議論が起きて、国民が賛成した場合には、アメリカに対して「我が国ではこんな状況なのでもうやらざるを得ないです」というようなシナリオもあればよかったなと思います。
石塚伸一:構造としては少しカジノも似ていまして、日本ではパチンコなど公営ギャンブル以外にギャンブルは禁止されています。しかし、外国から何か言われると、その周りで様々な利権の方が登場するという構造になっていますね。大麻もこれに少し似ているところがあって、マトリの方から見たら、もし大麻合法化の線で進むと、マトリの仕事がなくなってしまい、それは厚労省側としては大問題になりますね。
高樹沙耶:また、タバコが売れなくなるのではないか、お酒が売れなくなるのではないか、医療の何かがそちら側に移行してしまうのではないかといった考えを持つ人たちがいることも、大麻を悪者にし続けるプロパガンダをする理由であるという気はします。
石塚伸一:高樹さんの社会的な影響力が強いのでし、大麻に関する道が開かれると、すでに既得権を持っている人達にとっては大きなダメージになる可能性がありますね。
高樹沙耶:「社会ってそうでしょ」と言われたら仕方ないのですが、一応逮捕された人間にとっては、それが理由というのはひどいです。私は仕事も全然ありませんし。
石塚伸一:そうですね。大麻を合法的なものと見るか違法なものと見るかの大きな違いは、日本では違法な行為をした人は、表舞台にはでてはいけないという、社会的に完全に排除されてしまうという構造がありますよね。アメリカでも州によっては、大麻の問題で様々な法的な違反があり、何らかの形で逮捕され、あるいは病院で治療を受けているような女優やシンガーなどがいらっしゃいますよね。
高樹沙耶:はい。しかし、アメリカの場合はやはり人種差別問題が大きく、黒人の方たちの逮捕がとても多いというのが現実にあると思います。
石塚伸一:確かに、有名人の中でも、いわゆる白人と呼ばれる人達と、黒人と呼ばれる人たちとでは、扱いが違いますね。セレブ扱いを受けている人たちも違いますね。例えば、ホイットニー・ヒューストンというとても人気のあるシンガーも、薬のことで逮捕されてスキャンダルになると、黒人の方だったということで差別されましたね。大麻問題の背景にある差別意識みたいなものでしょうか。
高樹沙耶:そうですね。やはりそれはアメリカがアースリンガー(連邦麻薬局初代長官)という方が大麻のことを色々決めた時からはじまっているので、そのあたりの歴史を日本人はやはり知らないので、大麻に関する価値観がアメリカやヨーロッパとは本当に違うと思います。日本でも昔は大麻草が文化としてあり、今でも神社のお札に神宮大麻などと書かれたり、地名にあったりします。また、最近は少なくなってきたと思いますが、「麻」の字を名前に付けたりもしています。このように、現在も日本において大麻の文化は周りにたくさん残っています。それにも関わらず大麻は麻薬だと考えられています。2017年にはカナダが大麻の合法化に踏みきり、ニュースにもなりました。しかし、そういったニュースになっているにも関わらず、その価値観が全く変わらないという状況が続いているのかということが謎です。
石塚伸一:そうですよね。麻というのはとても早く大きくなるそうです。そこで、元気で育つようにというような意味で麻のつく名前が付けられ、また、麻の栽培をしていろいろなことに使っていたので、ものをつかさどるような人が麻のつく名前になったという話がありますね。また、戦前はそのようなものが日本の中でも神道などとつながっていたのですが、物質としてはインドから輸入されていた大麻もあり、そのインド大麻というものは種類が違う別のものとして扱われていたようですね。
高樹沙耶:日本でも、お薬として薬局に売っている時期もあったようですね。
石塚伸一:そうですね。丸山泰弘先生(立正大学)とアムステルダム大麻博物館に行った際に、富山の方の薬の会社が売っていたという薬の瓶を見たのですが、そこに日本ではどのように使っているかという説明があり、「日本では古来より…」と書かれていました。そこで古来から使われているのかという風に思いましたね。私が小学生のころは、ビートルズや、ベトナム戦争に反対するアメリカのヒッピーの人たちなどが、資本主義の社会の中で、社会を生きづらくすることに寄与することに対するカウンターカルチャーとして、シンプルイズビューティフルというような形の、「美しいことやシンプルな生活が良い」、「自然に帰りましょう」などといったライフスタイルを出してきました。ところが当時、林修三という内閣法制局の人が、1960年代にアメリカから入ってきた大麻文化が若者を蝕んだけれど、大麻取締法があるから今では大麻を規制することができるということを、「法律の広場」という雑誌に書きました。よって、おそらく、60年代の反戦や公民権運動などと結びついたカウンターカルチャーが育つということに対する、支配層や年配の人たちなどの保守的な人たちの危惧感のようなものがあるので、それが大麻への強い差別につながっているのではないでしょうか。
高樹沙耶:そうですね。しかし私は、そもそも地球上に自然に生えている植物を禁止するという、おかしなことに転換していってしまったのではないかというのが、大麻を賛同する方たちの意見だと思います。やはり大麻を禁止することによってアンダーグラウンドに行ってしまい、アンダーグラウンドの人たちがお金儲けをします。また、隠れて吸わないといけないので、より少量で強いものなどものを作り出していきます。よって、やはり大麻を禁止することによって歪めてしまった部分があるのではないかと思います。最初から有効的に使にはどうすればよいか、どういう風に使うと悪い状況になるのかということをきちんと整理すれば、有用だと思います。なかには悪用する人もいると思いますが、そういう人たちのために、すべてを集約するのはやはりおかしいと思います。
石塚伸一:機能的なものや科学的な分析とは違うレベルで、保守的な人達は「なんて不心得なことを言うんだ」と考えると思います。現代では、人間は自由に生きるべきであり、平等に扱われるべきだというような、多様性を認めるような考え方に変わってきています。そのような中で大麻の問題というのは、このティーチインも含めて、1960年代と比べると、「考えよう」という流れができるような状況にはなっていると思います。
高樹沙耶:今は大麻に関して多くの発言をする人や、本を出版する人も増えてきているので、カナダで合法化された2017年くらいから大きく状況が変わってきたと思います。日本でもCBDが許可を得て販売されているので、CBDが大麻の成分だと分からないのかと主張する方もいるみたいです。
3、質疑応答(一部抜粋)
(1)大麻の将来性について
石塚伸一:参加者Aからの質問です。鍼灸療法で使われる「もぐさ」は、ヨモギが原料なのですが、ヨモギの品種をアルテミシア種に限ることや、ISO委員会によって、製造過程での乾燥方法を標準化することが進められています。大麻も品種や産地、嗜好品になるまでの製造過程を分類して、管理された健康食品や医薬品になる見込みはあるのでしょうか。参加者B:今のところは、大麻から作られた医薬品で、イリオベックスやサキベックスなど、海外でお医者さんが処方できるものに関しては、そのようにして使えるようにしようという話が、少しずつですが順調に進んでいるのではないかと思います。実際に大麻から作られた医薬品を製造しているGW製薬というところが、この前ついに日本の医療ディレクターを募集する求人を出していました。石塚伸一:それではどこかの先生が引き受けて、治験をはじめるということですか?参加者B:そうですね。日本国内でもそういう形でやっていくことを考えているのだと思います。石塚伸一:医療従事者として、それはやはり効果があり、治療などに望ましいと考えますか?
参加者B:まず一歩目としてはこれしかないのではないかと思っています。ただ、そこで立ち止まって終わりにしたくはないですね。
石塚伸一:では、今度は逆に、同じ医療用大麻でも治験が認められない種類のものも出てくることになるということになりますか?
参加者B:医療用大麻と言っても、アメリカで使われているようなものの90%以上は代替医療なのでお医者さんは一切触れていません。今はサプリメントとしてネットで売られているようなものや、ディスペンサリーといわれるような、ライセンスをとっているようなところで売られているものがほとんどなのですが、どちらも今の病院では全然扱われていないですね。
石塚伸一:アメリカ食品医薬品局(FDA)というところが関与しているのですね?
参加者B:いえ、FDAもほとんど関与していないです。
石塚伸一:それは危なくないのですか?
参加者B:何か大きな問題がアメリカで起きているかというと、そういうことはありません。むしろ、病院で管理?されているはずの、医療用の麻薬であるオピオイドで、人が亡くなることが多く、オピオイドクライシスと言われています。よって、今のアメリカの最大の公衆衛生の問題は、コロナをおいておくと、そのオピオイド危機だと言えます
参加者A:よくわかりました。漢方薬みたいに同じ名前で呼ばれている物でも、製造の仕方や品種によって作用が違ったりするので、大麻もゆくゆくは日本の中で流通するようになったときに、「大麻」の一言でなく、どのような製法をした何という名前の大麻が原料のものという風になるのかなと思いました。
参加者B:漢方薬の感じで言うならば、おそらく今、厚労省は、ツムラが作っている漢方薬など、そういったもの関しては条件付きで承認するけれども、それ以外のところは引き続き「ダメ、絶対」という方向で、大麻所持者を逮捕し続けるというイメージをしているのではないかと思います。
参加者A:トリカブトも漢方薬になっているので。
石塚伸一:タバコだってそうですよね。
高樹沙耶:アメリカの大麻が合法化されたところでは、ディスペンサリーというところで大麻製品が売られています。そこでは大麻のかすいかほう?というものをそのまま売ったり、それをオイルで抽出したものやパウダーになっているものを売っていたりするなど、大麻には多くの抽出方法が存在します。さらに、品種改良もとても進んでおり、眠れるようになるものや、元気に働きながら使えるものなど、たくさんの種類のものがあります。また、THCの分量だけ上げたものも多く出ています。日本ではどうなるか分かりませんが。
石塚伸一:THCの濃度だけを強化してしまうと、依存性は強くなってくる可能性ありますよね?
高樹沙耶:もちろん耐性がついてゆき、強いものを求めるようになることはあると思います。
石塚伸一:例えばアルコール飲料についてもアルコール度数によって売って良いか決められていますよね。おそらく大麻も、管理をするのであればそのような形にしなければ危ないものはでてきますよね。
高樹沙耶:でも、そのアメリカの不安?を公開して宣伝してくださっているのですが、例えば小児がんの子供に対して大麻のTHCを投与する際に、中には重度の症状の場合にはたくさんの量を使うということもあります。そのようなエビデンスも、合法化になっている国では、どんどんどんどん蓄積されているという風には思うので、どの病気にどれだけのものが必要かというのは、今研究中というところだと思います。
石塚伸一:それは、お医者さんが医療行為として管理している中で行われているということですよね。
参加者B:いえ、むしろアメリカに関して言えば、かなり自己治療で行われているということがポイントだと思います。高樹さんからご紹介いただいた『WEED THE PEOPLE』という映画をぜひみていただけたらと思うのですが、ご家族と、ディスペンサルをしている人たちの判断で、THCの量を調整する形で行っても大きな事故は起きません。それは、大麻の安全性が高いからできていることだと思います。お酒に例えるならば、ウイスキーのように度数が40%、50%あるお酒を、アルコール度数高いお酒の方が気持ちよくなるからという理由で飲むかというと、そのような状況にはなってないですよね。大麻に関してもおそらく同じで、いろいろなものが出てきたからといって、どんどん濃度が高いものをみんなが好んで使うようになるかというと、そういうことは起きないですよね。みんな結局ほどよいところにたどり着くということが起きていくのではないかという風に考えられています。
石塚伸一:確かにロングスパンではそうですけれど、アルコール飲料などに関して言えば、戦後に闇のお酒みたいなものを造っていた時代に、例えば薬用のアルコールなどを飲む人など、依存症になるような人達もいますよね。そのように、中には度数の強いものの方が効くからというような使い方をする人が出てくることもありますよね。よって、それとは比較にならないかもしれませんが、確かに医療規制がかかっていることによってきちんと使えていないものがある場合もあるので、それを自己治療で使うことをお医者さんもついて行うというのが、ひとつの方向?だと思います。ただし、医療行為であるということは薬が認可されているかどうかという問題とは?変わらないので、どのように使っていくのかということについてきちんと議論しなければいけないという風に思いますね。
高樹沙耶:やはりアメリカなどのデータを参考にするのはとても大切だと思います。おかしなものや、どんどん強いものや過激なものにいく人は、おそらく既に好きで使っていると思います。したがって、合法化になった後もおそらくパーセンテージ的には変わらないということが、確かヨハン・ハリ著、福井昌子訳『麻薬と人間』(作品社、2021年)の中に書いてあったと思います。
石塚伸一:同じように薬を使用していても依存になる人の中には、その人の持っている基本的な気質の中で、薬に対して過敏に反応したりする人たちがいますよね。また、体の中でショックを起こして亡くなってしまうということもあると思います。
高樹沙耶:本では、そのような人たちは3%くらいであるというように書かれていました。
石塚伸一:エビデンスの量ですよね。アメリカでも1960年代から70年代の頭くらいに、多くのタバコ業者の人が、大麻に転換しようかと思ったことが一時期あったらしく、きちんとデータを集めて研究をして、大麻はタバコより依存性がないって言った人がいました。すると今度は逆に、大麻にだって依存性はあるという主張が出てきて、そのように、学術論文がたくさん飛び交った時代があるという話を聞きました。ちょうど1960年代から70年代の、大麻に対する文化的、社会的な偏見のようなものがある時期だったので、その時のエビデンスと、現在、医療の技術の中での研究も進んでいる中でしていることは違うとは思います。
(2)大麻の非犯罪化について
石塚伸一:参加者Cさんから、「全国で現場の警察官の意識が変わり、大麻では逮捕しないと決めてくれたら、その日から日本は非犯罪化になりませんか?」という質問です。
参加者C:ちょうど芸能人が逮捕されたときに、ツイッターの中で非犯罪化の話が結構出てきました。私は、もしかすると現代の若い警察官たちには、考えとして柔軟な方が多いのではないかと思うのです。つい最近も23歳の警察の方が確か大麻所持で捕まったようなニュースを観たと思うので、警察が逮捕しなくなったら非犯罪化になるということが起き得るのではないのかと思いました。
石塚伸一:事実上、今も大麻の自己使用は逮捕していません。だから高樹さんのような、所持の共同正犯で捕まえるなどということは、警察段階では普通はありません。2年くらい前までは、自己使用で大麻が出てこなかったような場合については立件せず、量が少ない所持の場合にはそれをいちいち事件にしていませんでした。法律家的感覚でいうと、そういうことがありましたが、覚せい剤はそうではありませんでした。私は、このところ急激に大麻の逮捕者の数が増えているのは、僕取り締まりの方針が変わっただけだと思っています。
参加者C:私もそう思います。特に若い人たちを狙うということをしているのではないかと思います。
石塚伸一:そうですね。若い人達はノーガードで、警察に捕まるのも初めてだったりするので、全部話してしまいます。そして、携帯電話のメールのリストを消してないので、芋づる式で見つかります。少し前ですが、売人をやっていた人の交信記録を全部証拠開示してもらうと名前のリストがあり、それが証拠になっていました。その中に聞いたような名前の人たちが入っていたりするので、「今日いいのが入ったんですけど、どうですか?」、「あ、じゃあちょうだい」というようなやり取りも書かれています。しかし、これでは証拠がなく、先ほど述べた3点セットが揃わず公判維持ができないので警察は捜査しません。ところが、警視庁の5課では誰が大麻を使っていそうかということは知られているので、その中で、今度は誰にしようかということを非常に恣意的に決めて狙います。だから捜査を受けた側も非常に不公正感や不平等感というのを感じるのだと思います。私は法律家として、現場で、この人はいい、この人はどうしようかという風に選別できるようにして押さえるというやり方は、法に対する信頼を損なうと思います。それならば法律で、使用は犯罪にしないままにします。また、使ったのが犯罪でないならその前に持っていたのが犯罪だというのはおかしいといえます。よって、所持については、大量に所持している場合と少量を所持している場合に分けて判断する。自分で使うために少量持っているものは、処罰せず、大量に持っている場合、これは薬によって、他人の生命、身体、社会の健康などを害するということがあるのであれば、所持罪にする。そして、その基準を明確化するというのが、今の私の考えです。所持されている規制薬物には二つの側面があります。一つ目は自分が使って身体に入れるという側面です。もう一つは、家にたくさんの覚せい剤を置いておいたのを、子供が持ち出す可能性などもあるので、他人を害するという側面も持ちます。大麻の所持にはこの二つの側面が重なっています。高樹さんが逮捕されたような事件については、別に人に危害を加えるわけではなく、誰かが盗みだしてたくさん使うわけでもないので、そもそも犯罪にする必要はありません。共同所持だとしても、少量の自己使用のためのものであったならば放っておけばいいと思います。それに対して介入してきて非難するというのはぞっとしますね。そもそも逮捕する理由の説明がつかないですよね。
参加者B:参加者Cさんのおっしゃる通りで、現場の人たちや省庁が逮捕するのをやめようと思えばやめられると思います。それに関しては、事を荒立てて、逮捕した側が追求されるようなことになることで、足がとまるということはあります。例えば、ガンの治療に大麻を使ったために逮捕されたという方がニュースで取り上げられたのですが、噂によるとそれ以降、深刻な病気に大麻を使用している人は起訴されづらくなったそうです。要は、こういうものを検挙すると、自分たちがニュースやネットで叩かれてやりづらくなるってなるので、起訴するのをやめようという風になったということです。
高樹沙耶:これは本当です。護送車にカーテンがあり、以前はそれをわざと開けられてしまっていましたが、最近はしっかり閉まっています。
石塚伸一:座る位置も、写真が撮れるように真ん中でしたよね。
石塚伸一:SNSでマトリや警察を攻撃するのではなくてもね、高樹さんの裁判の時に、やはり徹底的に戦うべきだったという思いがありますよね。やはりみんなである程度手を組み、支援をしなければいけないと思います。
高樹沙耶:そうですね。きちんと地固めをしないといけません。さらに、私の場合、勾留と裁判の半年間のうちに、精神的に戦う意欲を完全に失いました。独房の中にずっと入れられていたら、普通はまいってしまいます。私も出てきてから環境適応障害になってしまいました。
参加者B:2016年当初というのは、マスコミでも今みたいに擁護してくれる人が誰もいなかったですよね。そのような中で、高樹さんだけ孤軍奮闘しろという風に言うのは、やはり酷な話ではないかと思います。
さいごに、石塚教授は、大麻の禁止は戦後の時期にできたことから、歴史的に、戦後体制の問題だといえること、霞が関の役所の中でも、意識の変化が起き始めているので、変わらないものではなく、変わるものだと考えていくということが、おそらく大事であると述べ、第8回ティーチインを終えました。