2021年5月17日、龍谷大学犯罪学研究センターとATA-net研究センターの共催で、連続ティーチン第6回「裁判所は大麻の<有害性>についてどのように考えてきたのか」が、オンライン上で実施され、約115名の方が参加されました。今回は、日本における大麻の扱いの変遷や、大麻取締法をめぐる様々な議論について発表され、その後にディスカッションが行われました。

報告者:園田 寿(甲南大学名誉教授)

目次
1、 大麻の定義
2、 大麻の有害性
3、 質問の一部抜粋

 

 

1、 大麻の定義
古来より、大麻は日本では親しまれていたものでしたが、戦後に、大麻にマイナスのイメージを抱いていたアメリカの影響を受けて、法律で大麻が規制されるようになりました。その結果、昭和23年に公布された大麻取締法は現在も続いており、それをめぐって様々な議論が存在します。そのうちの一つが、大麻取締法における大麻の定義です。大麻取締法は、大麻を定義して、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)と条文に書いています。ここで問題になっているのは、大麻というのは一属一種の植物なのか、一属多種なのかということです。大麻の中にはサティバ種、インディカ種、ルーデラリス種という様々な大麻があり、一属一種説はサティバ、インディカ、ルーデラリスというのはすべてサティバの変種であり、元はサティバであるとする説で、一属多種説というのは、インディカ種とルーデラリス種は大麻であるサティバ種とは全く別のものなのだという考え方です。法律は、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)と書いているので、一属多種説の立場からすれば、カンナビスのサティバ種だけを規制しており、インディカ種とルーデラリス種は規制の対象外であるという解釈が成り立つのです。これに対して過去に最高裁は、大麻取締法の立法の経緯、趣旨、目的等によれば、大麻草(カンナビス、サティバ、エル)というのは、カンナビス族に属する植物すべてを含む趣旨であると解するのが相当であるとして有罪にしました。しかし、1970年代以降有力となってきた一属多種説の立場では、インディカ種やルーデラリス種まで処罰することは類推解釈であり罪刑法定主義に違反するということになります。また、刑法を制定する際、一般的には条文にその目的規定が書かれるところを、大麻取締法にはそれがなく、つまり、実際には大麻取締法の目的がはっきりしていないことも問題とされています。

2、 大麻の有害性
大麻をめぐるもう一つの主な議論が、大麻の有害性についてです。過去の裁判では、大麻の有害性は公知の事実であり、大麻の有害性というのは、大麻取締法による大麻輸入の規制目的の正当性、その規制の必要性、規制手段の合理性を基礎づける事情である「立法事実」であると述べられたのみで、詳しい説明がなされませんでした。まず、大麻の有害性が公知の事実とされたことに関して、「公知の事実」が医学的に確証されたという意味ならば、その後の有害性に関する医学的な議論によって、公知の事実と考えられている部分は、当然変わりえます。ただし、有害性には他害性と自害性の二つの意味があるのですが、他害性を強調するのならば、他者への侵害可能性というものが実証されなければなりません。この点の説明ははっきりしないのですが、実際には他害性より、自傷性、健康被害ということの方がかなり強調されている印象を受けます。その場合、なぜ本人に健康被害があるということが刑罰の根拠になりうるのかということの説明が十分になされていません。また、大麻の有害性は立法事実であるされたことに関して、立法事実とは、経済的、社会的、政治的、科学的な事実のことであり、裁判所がいちいち証明する必要のない当然の事実として判決を書いてもよいというものです。ところが、大麻の立法事実が危険性ということであるならば、単なる危惧感ではなく、どのような合理的根拠があって危惧感がでてくるのかということをきちんと説明しなければならないといった問題があります。

 

 

3、(質疑応答の一部)
この報告に対し、参加者からは、以下の質問がありました。

質問: 麻薬や覚せい剤は大麻に比べ依存性が強いとはいえ、暴力事案や交通事故など、他害行為に関する寄与割合はアルコールと大きな変わりはないと思います。それにもかかわらず大概の国でそれらが禁止されている根拠は何でしょうか。

回答: 公共性の観点から言えば、例えば未成年に対して大麻を吸ったり吸わせたりということは、健全育成という観点から制約されるのは当然だろうと思いますが、成人に対して大麻OKだと言った場合に、みんなが大麻を吸い始めたら、公衆衛生の観点からまったく人体に何も影響がないということはないので、そこは少し難しい問題だと思います。また、例えば現在、コロナの影響でマスクをつけないということを激しく非難されたりしますが、マスクをしないと人に感染させる可能性があるので、つけていない人を責めるというのではなく、みんなが決めたことに従っていないから責めるという、短絡的な非難になっているのではないか考えます。大麻もそれと同じように、大麻を使った有害性より、法律に違反したという、ルールを破ったことの方が重いという、短絡的な非難のシステムになりはしないかという恐れはあります。

 

質問:裁判所は、大麻の有害性の根拠とされているTHC(幻覚を見せる成分)の幻覚性について、幻覚を見るとは何を意味しているという風に解釈しているのでしょうか。

回答:その部分についてはまだはっきりしていません。しかし、幻覚性というものについて一部では、大麻を使用したことによって、統合失調症に極めて似たような症状が一部の人で見られるというようなことが言われています。実際にそういうデータがあるので、それをもって幻覚と言っているのだと思うのですが、大麻使用罪設立に前後して、4千人くらいに調査をした結果、大麻の使用をきっかけとした精神障害みたいなものを経験したことのある人の割合は、1%前後であり、これは統合失調症の発症率と変わりません。そして、回答してくれた人は若い男性が多く、統合失調症もだいたい若い男性に発症する病気です。このように、大麻の使用開始の年齢と統合失調症発症の年齢は極めて近いところにあるのを考えると、大麻の使用によって精神障害のようなものを経験したと考えられた人が、実際には統合失調症によってそれを経験していたという可能性があります。また、遺伝的な素因で統合失調症などになりやすい人が大麻を使うことによって、ごくまれにそのようなことを経験するというような、極めてまれなケースというものも存在するため、大麻の規制を厳しくするためにそういったことがきちんと分析されないままピックアップされてきたというのが実際のところではないかと思います。

 

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シリーズ 第7回ティーチイン 「青少年の薬物乱用の現状と課題 ~『ダメ。ゼッタイ。』に換えられるものは何だろうか~」

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