2021年2月22日(月)、龍谷大学犯罪学研究センターとATA-net研究センター共催でシリーズ大麻ティーチン第2回「ハーム・リダクションとは何か?〜非犯罪化、非刑罰化、非施設化のメリットとデメリット〜」がオンライン上で実施され、約75名が参加しました。今回は、いち早く欧州のハーム・リダクション政策を実際に調査した徐淑子(新潟県立看護大学講師)さんと丸山泰弘(立正大学法学部准教授)さんに、オランダとポルトガルの現状についてお話しいただき、意見交換を行いました。

 

徐淑子「オランダの大麻をめぐる政策の流れとハーム・リダクション」

 

 

1.オランダにおける大麻政策の特徴

オランダは、大麻の取り締まりを柔軟にすることによって薬物問題に対応してきた。その特徴として、個人に対するソフトドラッグの販売、一人当たり5株までの大麻栽培の許可などが挙げられる。このような、個人使用に関わる大麻販売の透明化には3つの効果が期待される。一つ目は、大麻を含むソフトドラッグと、より有害とされるハードドラッグとの間の市場分離を図り、大麻のゲートウェイ化(好奇心から軽いドラッグを使い始め、どんどんどんどん作用の強いドラッグに進んでいくというような現象)を阻止すること。二つ目は、大麻売買を監視可能にして、必要な時にいつでも処分処罰できる状態にすること。三つめは、大麻使用の脱スティグマ化(負の烙印を押されることからの脱却)である。

 

2.オランダにおける大麻のハーム・リダクション

オランダにおける大麻のハーム・リダクションとは、一番短い定義としては、薬物使用の禁止を直ちに求められることのない薬物対策プログラムであると言える。ハーム・リダクションのプログラムとしては、注射器の配布、医療監督下での薬物指導プログラム、薬物使用ルームに加え、問題や相談したいことを身近なスタッフに相談することができ、薬物使用しても怒られないシェルターの存在などが挙げられる。これらがオランダを含め、外国で実践されている代表的なハームリダクションプログラムである。

 

丸山泰弘「『その人らしく生きていく』を支援するポルトガルの挑戦

 

 

1.アメリカのドラッグコート

アメリカのフロリダでは、1980年代にかけて、大量のコカインが流れてきた。その結果、コカインを使用しては刑務所に入るということを繰り返す事例を見た裁判所の人たちによって、薬物専門の裁判所であるドラッグコートが始められた。これは、裁判の審議の過程の中に薬物の回復プログラムを組み込み、それを修了したらその裁判を終結させるという制度であった。その後、ドラッグに限らず、その人が抱えている社会問題を解決することで、逸脱行動を行わないようにできるのではないかということで、問題行動に罰を与えるのではなく、その背景にある原因を見て問題を解決するという、問題解決型裁判所も始まった。

 

2.ポルトガルの薬物政策

ポルトガルでは、自由自在に薬物を使っていいのではなく、刑罰を科せられる処罰する可能性が残っている。しかし、自己使用の量を定め、それを下回る量の所持だった場合、刑事司法手続きは打ち切られ、コミッションという相談所に行くという仕組みになっている。コミッションの仕事は、薬物ユーザーに生活上の問題がある場合、それを解決して、問題使用があるならばそれを減らしていくという解決策をとることである。生活や生きていく上での問題の中で、薬物使用とはほんの一部であり、薬物の使用以外に困る問題はたくさんあるので、その結果また薬物使用に至る可能性がある。よってポルトガルでは、薬物からの回復のために、その他の生活の問題も同時に解決するという方法をとっている。

 

 

(質疑応答の一部)

参加者からは、両名に対し、日本ではまだ行われていない取り組みがあるかなどの質問がありました。

これに対し、徐さんは、日本では、一気飲みなど、トラブルが起きた時に通報を躊躇した結果、死亡するような事故が存在する一方で、オランダでは、もし自分が友達と一緒にドラッグを使っていて、友達が倒れた場合、911しても逮捕、起訴されないため、通報して罰を受けるようなシステムより、救護義務を果たしたら罰せられないような仕組みの方がいいのではないかとの提案を行いました。

また丸山さんは、薬物との付き合い方は人それぞれであり、薬物を違法化、厳罰化すれば、それぞれに合う生き方(薬物との付き合い方)を選択することができない。なので、非犯罪化、非刑罰化が良いのではないか。かつて日本ではたばこが流行っていたが、今はかなり減っている。それは、価値観の変更に伴う教育によってもたらされた結果である。そもそも、そういった問題は刑罰に頼らなくても減らすことができると実験されており、刑罰を置くことの弊害の方が大きいと回答しました。

 

 

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シリーズ第3回ティーチイン 「ドイツの薬物政策〜使用と所持の法規制をめぐって〜」)

現在も大麻問題に関するティーチインは行われています。

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