第3回ティーチイン「ドイツの薬物政策~使用と所持の法規制をめぐって~」
2021年4月13日、龍谷大学犯罪学研究センターとATA-net研究センターの共催で、連続ティーチン第3回「ドイツの薬物対策~使用と所持の法規制をめぐって」が、オンライン上で実施され、約70名の方が参加されました。今回は、龍谷大学法学部の金尚均教授から、ドイツにおける薬物の使用と所持の規制について、ドイツではどのような政策が行われているのか、また、法律でどのように定められているのかということについてお話いただき、質疑応答を行いました。
金尚均「ドイツの薬物対策~使用と所持の法規制をめぐって」
目次
1、ドイツの薬物に対する容認政策について
2、ドイツにおける薬物に関する刑事手続き
3、まとめ
4、質疑応答の一部抜粋
1、 ドイツの薬物に対する容認政策について
現在、ドイツでは、薬物に対して容認政策がとられています。容認政策のもとでは、薬物依存は犯罪ではなく依存、病気とみなされ、依存者に対して、強制的な治療的アプローチではなく、自由意志と自己決定に基づく、依存者に対する支援が行われます。これがドイツの薬物対策の特徴です。この容認政策は、①自己使用のための薬物の所持、入手等を、非犯罪化でなく非処罰化すること②いわゆる薬物使用者に対して、肝炎やエイズを予防するために、注射針を交付するということを、市と国の保険の財政を根拠とした、保健室と呼ばれる建物で行うこと③メサドン治療④メサドンではだめな人に対して、純度の安定したヘロインを、国と市の財政のもとで交付するという、4つの柱を基本としています。
2、 ドイツにおける薬物に関する刑事手続き
ドイツでは、大麻の、個人の少量の自己使用のための入手や所持というものは、個人的、個別な違法性や責任というものを考慮することによって、違法だとしても処罰しないということがありうるのではないかと考えられました。そこで、刑事手続き規則の153条ならびに153条aの一般規程で、起訴法定主義(犯罪の嫌疑が認められるときは,必ず起訴しなければならないとする制度)の例外を定めました。これを、より特別規定として、ドイツ麻薬罪法29条5項並びに31条aというものを設けることで、薬物問題に特化して、起訴便宜主義を採用することになり、検察官がどの事案について起訴するかどうかということを、最終的に選択、判断することができるようになりました。このドイツ麻薬罪法29条5項というものは、具体的に言うと、裁判手続きを公判途中で打ち切るという手続きです。そして、31条aは、公判以前の検察段階で、検察が、その少量の使用目的での入手や所持の場合、起訴をしないことができるという規定なのですが、「少量」の内容は、州によって異なります。
3、 まとめ
2011年にドイツの薬物政策の基本は、いわゆる少量の所持、入手というものに関して、処罰というものを控えるというような対応をすることです。また、薬物使用者に対する対応として、例えば薬物を打つ注射針の交付や、ヘロイン依存者に対する純度の安定したヘロインの交付といった形での対応も行われています。さらに、ヘッセン州のフランクフルトという都市では、薬物依存者支援施設、薬物を交付する施設、そして検察官、裁判官等々が一堂に会し、月に一度会議を開いているそうです。そこでは、フランクフルトの薬物の対策をどのようにするのか、ないしは薬物依存者の状況はどうなっているかという風なことを、関係当事者が話すラウンドテーブルで話すそうです。そういった形で、機関を横断的に薬物対策が行われているのもドイツの特徴なのではないかとい考えられます。
(質疑応答の一部)
この報告に対し、参加者からは、以下の質問がありました。
質問:少量所持ならが処罰しなくていいとされる理由は、自分に薬を打つのは自傷行為であり、ドイツでは自傷は処罰されないからだということに関してですが、処罰しなくていいから薬から回復しようという風になるのか、不健康が進もうがその人の自由意志だからなのか、どちらでしょうか。
回答:まず、ドイツでは自傷行為は処罰しないというのがドイツの法原則らしいですが、薬物依存者の支援という形で、社会または法政策は動いている側面もあります。ただし、薬物交付をするようなところでも、そこの署員の人たちは、針はあげるけれども、手の震えている人に対して助けてあげるような行為は、本人にとっては自傷でも、他人が手伝うと、他害ということで犯罪になってしまうため、してはいけないそうです。したがってその点は、個人を支援するというより、いわゆる国民の保険政策として薬物依存者を支援しているという、ある意味公衆衛生的なところも捨てきれないですね。
質問:健康面の観点から、支援はまず薬を止めてからするべきではないのでしょうか?
回答:やめさせるということを勧めはするけれども、決めるのはあなたですよというのがドイツにおける自己決定権で、ここが日本とは大きく異なります。例えば、ヘロイン依存者にヘロインの使用を許すような施設では、薬をやめろと言っても逆に死んでしまうので、まずはその人たちの健康を維持しましょうという風に言うところもあります。よって、薬をやめて逆に死んでしまうようなことが得策なのかということが、ドイツなどでは争われている側面はあるのではないでしょうか。ここは日本等でも議論のあるところだと思います。
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シリーズ第4回ティーチイン 「日本人が知らない大麻の話〜医療用大麻とエビデンス・ベイスト・ポリシー(EBP)〜」
現在も大麻問題に関するティーチインは行われています。