2021年4月某日、龍谷大学犯罪学研究センターとATA-net研究センター共催で第4回目のティーチン「日本人が知らない大麻の話〜医療用大麻とエビデンス・ベイスト・ポリシー(EBP)〜」がオンライン上で実施され約200名が参加しました。今回は一般社団法人Green Zone Japanの代表理事であり、医師である正高佑志先生から、医学的な観点から専門的な大麻の薬学的知識を共有した上で、意見交換が行われました。

 

 

正高 佑志「日本人が知らない大麻の話〜医療用大麻とエビデンス・ベイスト・ポリシー(EBP)〜」

2021年4月某日、龍谷大学犯罪学研究センターとATA-net研究センター共催で第4回目のティーチン「日本人が知らない大麻の話〜医療用大麻とエビデンス・ベイスト・ポリシー(EBP)〜」がオンライン上で実施され約200名が参加しました。今回は一般社団法人Green Zone Japanの代表理事であり、医師である正高佑志先生から、医学的な観点から専門的な大麻の薬学的知識を共有した上で、意見交換が行われました。

 

石塚伸一: 皆様お集まり頂きありがとうございます。従来では大麻の所持は5年以下の懲役に科せられ処罰されますが、大麻の自己使用は犯罪ではなく処罰されないと従来ではされています。ところが近年では、大麻の自己使用についても犯罪として処罰するべきではないかという議論が厚生労働省の中の専門家委員でされるようになってきました。この大麻自己使用の処罰が科学的な証拠の基づいておらず、科学や医学が進歩発展している中、1970年代、80年代の古い知識を用いて処罰に対する議論が行われています。そこで今回のティーチインでは、国内外の大麻情勢をフォローしてきた正高さんに医師としての観点から日本の大麻政策に対する提言を行ってもらいたいと思います。正高さん自己紹介も含めて趣旨説明と提言をよろしくお願いします。よろしくお願いします。

正高佑志:はい石塚さんご紹介ありがとうございます。正高と申します。資料の方を共有しながらお話をさせて頂こうと思います。今日は日本人が知らない大麻の話ということでタイトルを付けさせて頂きました。私は普段、熊本の病院で勤務をしながら、一般社団法人Green Zone Japanを4年ほど運営しております。一般社団法人Green Zone Japanでは初めは科学論文などをベースに大麻に関するブログの記事を書いたり、アメリカで作られた大麻に関するドキュメンタリー映画を日本語に翻訳して字幕をつけて見てもらったり、最近では大麻に関する研究して、大麻のC B Dを使っている人はどんな人なのか大麻についてどう思っているのかなど共有したり、ここ1年前からyou tubeでも大麻に関する動画を投稿、更新しております。今日は医療用大麻とはどういうものかの解説をして、国際的に大麻はどう扱われているか、日本ではどう医療用大麻を扱っているのかを解説した後に、今日の日本の大麻使用罪の流れを踏まえて今後日本の大麻はどうするべきなのか医者の見地から意見を述べさせて頂きます。

 

目次
1.民衆は大麻をどう思っているのか
2.医学的に大麻は危険か
3.医者さえ知らないことが多い「医療用大麻」
4.なぜ医療用大麻は有用とされるのか
5.大麻に含まれる化学物質THCとCBD
6.アメリカでのCBD大麻治療とその普及
7.日本とCBD大麻治療
8.大麻治療を妨害する「大麻使用罪」は本当に必要なのか
9.なぜ厚労省はデメリットの方が明らかに大きい「大麻使用罪」を成立させようとするのか
10.厚労省の偏向資料 マトリの利権のために正義を捨てた手法
11.医療用大麻に関する提言とこれから

 

1.民衆は大麻をどう思っているのか
日本で大麻を吸ったことがあるという人は日本の人口のうち1%ぐらい、もしくは1%未満と言われています。そのため多くの大麻を吸ったことも見た子もない人たちにとって大麻は「逮捕」という言葉は連想させます。なぜなら皆さんが「大麻」という言葉を目にするのはワイドショーなどで逮捕されているのを横目で見ながら「あいつも終わったな…」と有名な人たちがスッと落ちていくのを見て、自分がどこかフワッと浮き上がったような、ちょっとした優越感を抱くために語られることが圧倒的に多いからです。しかし、最近では報道の在り方や風向きが変わってきていることに、みなさんはご存知ですか。海外で医療用大麻が解禁され、それが広く広まり医療用途に関して取り上げられてきました。そのため、芸人の中田敦彦さんやタレントのモーリー・ロバートソンさん、インターネット匿名掲示板「2ちゃんねる」の開設者である西村博之さんなどの影響力のある著名人方々の中でも、安直に「大麻=犯罪」と考えるのではなく経済的側面や医療的側面から、多面的に大麻というものを捉えて、大麻が「ゼッタイにダメ」だと限らない見解を示している人がここ数年でちらほら出てきています。もちろん、大麻は「ダメゼッタイ」と大麻は常にどんな状況でも、絶対的にダメなものと捉えている人は多く、そちらの方が多数派と言えます。
では、なぜこのように、状況に応じて大麻を認める人と絶対的に大麻はダメであると考えるある意味正反対の意見が出てきているのでしょうか。
それは大麻と覚醒剤の違いが分からず、大麻と覚醒剤の区別がついていないからではないかと思います。大抵の人は大麻を使ったことがありません。多くの人にとって大麻は非日常的で身近ではないものです。非日常的なものに対して区別がつかないのは当然であり仕方がないことと言えます。
スポーツなど興味があり日常生活に身近な存在であれば、区別をつけることができます。スポーツ選手でも誰がどのスポーツを行っていたかはパッとわかる人が多いです。イチローと清原さんが野球選手で、本田さんとヒデがサッカー選手と多くの人区別することはできます。しかし、薬物で逮捕された芸能人の方々を知っていても、その人達が何の薬物で逮捕されたかということをパッとわかる人はほとんどいません。清原さんとASKAさんは覚醒剤で、沢尻さんはMDMA、伊勢谷さんは大麻と区別できる人は少ないと思います。これは行政が薬物の区別をつけずに科学的情報の乏しい情報を発信していることにも起因します。同じような分類のものでも多くの違いが存在するように、違法薬物の中にも性格の違い、安全性の違いというものが存在します。

 

2.医学的に大麻は危険か
世界で最もよく知られた医学雑誌であるLancetでは2010年に掲載された論文では、合法、違法を問わず薬物の安全性についての研究が行われました。様々な専門家が集まり薬物の安全性、有害性を評価した結果、最も有害である薬物はアルコールであり続いてヘロイン、覚醒剤などのアンフェタミン、コカイン、たばこ、の順に危険度が高く、大麻の有害性はこれらのものよりも低いという結果となりました。このアルコールの有害性が高く、大麻の有害性が低いということは科学的な定説となっています。この科学的な定説を、誰かが大麻で逮捕された時に頭の片隅に置いといて判断して欲しいですね。
原則としては、薬物で人を逮捕し罪に問うのは使用者の健康被害から守るために行っています。逮捕され投獄されるデメリットよりも大麻による健康被害の方が大きいからこそ、本人のために罪に問うているのです。つまり「このまま薬物使っていたらお前ヤバイから逮捕してでもお前を止めてやらんといかん!それがお前のためや!」という事です。しかし、大麻の有害性を鑑みると、大麻による健康被害とよりも逮捕されたデメリットの方が大きいのが現状です。これはコカインの話ですがピエール瀧さんは損害賠償が何億円もかかることになりましたし、MDMAですが。沢尻エリカさんも逮捕により仕事が出来なくなってしまった賠償金が何億もかかっています。逮捕という行為により、芸能人の復帰の道も収入も絶たれていると言えます。こんな状況では何のために逮捕をしているか分からなくなってしまっているのが現在の大麻政策です。それらを踏まえて「薬物ダメゼッタイ」を続けた結果、当初の方向性を見失い不要な損害を発生させているとして、国連では薬物を単に所持使用している末端ユーザーに対しては非犯罪化をして大麻による逮捕や投獄をしないこと推奨しており、世界では実際に世界の50カ国以上の国が非犯罪化して、違法ではあるが逮捕投獄しないものとして、未成年喫煙や立ち小便と同じように扱っています。
逮捕投獄をしても本人の役に立たない事や大麻が医療用として有用であることから、国連麻薬委員会は大麻及び大麻樹脂を最も危険な麻薬として分類していたがそれを外すことを承認し医療用大麻の価値を認めることとなりました。

 

3.医者でさえ知らない人が多い「医療用大麻」
「医療用大麻」という言葉自体は高樹沙耶さんの事件などで知っている人は多いと思います。しかし、どんな病気に対して医療用大麻が使われるかを知っている人はかなりの玄人だけです。お医者さんの中でも医療用大麻と医療用麻薬オピオイドの区別がついていない人が多いです。法律用語でいう麻薬と医療用語でいう麻薬の定義は異なっており、医療用麻薬=オピオイドはケシの花から取れるアヘンを用いた薬品のことを指し、そこから生成したモルヒネや類似のヘロインなどです。オピオイドは痛み止めとして用いられ、それ以外の用途ほとんどありません。
多くのお医者さんは医療用大麻をオピオイドと勘違いして「痛み止めなのでしょう?」と勘違いしたまま議論を進めます。もちろん医療用大麻は痛み止めとして使えますが、用途はそれだけではありません。医療用大麻は痛み止めだけでなく、アルツハイマー認知症やH I Vやエイズなどにも効果があります。ALSという「僕がいた時間」でも登場したどんどん痩せていってしまう病気、がんや潰瘍性大腸炎やクローン病などを含む炎症性腸疾患、緑内障、パーキンソン病、PTSD、偏頭痛、トッレット症候群や線維筋痛症、関節炎、神経障害、自閉症にも有用とされており、食欲不振を改善できる数少ない薬の1つでもあります。また吐き気止めやてんかん、多発性硬化症などにも有効です。一説には大麻は200〜250の症状に効果があるとされています。実際にアメリカではこれらの病気の治療に実用化されています。
日本のお医者さんに「医療用大麻についてどう思いますか」と尋ねると中には、「現場は困っていない」と答える人が多いかも知れませんが、それは医療用大麻がどんなものか知らないからですよ。日本では医療用大麻が合法化されていないこともあり、医療用大麻についての知識を学校で学ぶことはまずありません。医療用大麻は例えるならiPhoneのようなものです。10年前ならiPhoneなくても困っている人はいないでしょう。ですが実際使ってみたらどうですか?iPhone便利じゃないですか。スマホのない生活は不便で非効率的な生活を送ることになります。海外とは異なり日本では医療用大麻を行った治療を行うことが出来ていないからこその意見ではないのかと思います。医療用として扱うことができれば多くの治療に非常に役にたつと私は思うわけです。

 

 

4.なぜ医療用大麻は有用とされるのか
こんな色んな病気に効くと言われるとやっぱり怪しまれるわけです。普通の西洋医学というのは1つの病気、症状に対して1つの薬となっているわけです。大抵は多くても2つか3つぐらい病気や症状に対してしか効きません。ではなぜ多くの病気に対して医療用大麻に効果があるのかというと、私たち人間も鳥も魚も、体の中に大麻の成分に似たエンド・カンナビノイドシステムという情報伝達の仕組みが備わっているからです。つまるところ今皆さんが話を聞いて、お茶を飲んだり、手を動かしたりする全ての行為は、脳科学的には脳の神経の細胞の電気的な興奮と細胞と細胞の化学物質のやりとりで成り立っています。この情報をやり取りする化学物質のことを神経伝達物質と言います。例えばアドレナリンとか、ドーパミンとかセロトニンとか聞いたことあると思います。こういうものが神経伝達物質です。こういう物質と並んでエンド・カンナビノイドという神経伝達物質が皆さんの体の中にも存在するということが1990年代に明らかになったわけです。これを調べてみると免疫を司る白血球や胃や腸などあらゆる組織に存在していることが明らかになりました。ではこのエンド・カンナビノイドが何をしているのかというと、一言で言えば、皆さんの体のバランスを整える作用を司っていると思って貰えば良いと思います。例えば僕が体温とかが上がって熱くなってくるわけです。そうすると汗をかいて体温を一定に調整したり、体の中のエネルギーが少なくなってくると血糖値が下がって「お腹すいたな」と感じて、ご飯を食べると空腹中枢が刺激されてお腹いっぱいだなと感じたりするなど自動調整を行う機能が備わっているわけです。このような自動調節をサポートしているのが体の中の大麻成分なのです。
このような体のバランスを調整しているモジュレーターの役割があるエンド・カンナビノイドが足りないことで具合が悪くなっているという仮説があるのです。その他の神経伝達物質の場合は、神経伝達物質が足りなくて具合が悪いという症状は発見されています。有名なものはパーキンソン病です。パーキンソン病はドーパミンという神経伝達物質が足りなくなる病気でドーパミンを供給してあげることで通常通りの活動が可能になります。他にもアルツハイマー認知症の人に関してはアセチルコリンという神経伝達物質が足りない場合があり、アセチルコリンを増やす薬を処方されるわけです。そのような病気が存在するようにエンドカンナビノイド、体の中の大麻成分が足りなくて病気になっている人がいるのではないかという仮説が存在します。例えば、偏頭痛や過敏性腸症候群、線維筋痛症の患者さんや自閉症やPTSDの患者さんなどです
まとめると大麻というのが何十という病気の治療に役に立つのは皆さんの体の中に大麻と同じ物質が存在していて、それが体の調整を果たしているからです。そのため体の中の大麻成分が加齢やストレスなどで足りなくなった人に体外から補ってあげることで本来の機能を取り戻せることが出来ると期待されているからです。

 

 

5.大麻に含まれる様々な化学物質 THCとCBD
この話を聞いて「大麻って医療で有用なのか」と思ってくれた人は多いとは思いますが、「でも、日本では使えないのでしょう?」と思った方もいらっしゃると思います。その通りです。だからこそ日本ではお医者さん達は関心がないのです。
しかし最近になって日本でも用いられる医療用大麻成分が出てきています。それがCBDというものです。大麻というのは不思議な植物で大麻草にしか含まれない成分が140種類以上含まれていると言われています。その中で一番有名なものとしてはTHCが挙げられます。THCは独特の精神作用があるので人をハイな状態することができると言われており、それゆえに大麻は違法薬物とされています。それに次いで多い成分としてこのCBDが挙げられます。これはTHCのような精神作用はないけれど、薬として役に立つということで、ここ10年で急速に注目を浴びているわけです。大麻は1960年代から細々と研究されていました。従来は精神作用を及ぼすTHCに注目されてそればかり研究が行われていました。しかし2010年をこえてCBDに対する研究が行われてきました。THCとCBDのバランスを整えて用いることで医療的な活躍が見込むことが出来ることがわかり医療用大麻が注目を浴びました。

 

6.アメリカでのCBD大麻治療とその普及
CBDが世界的な注目を集め始めたのは2013年のシャーロット・フィギーちゃんというドラべ症候群を患った女の子のケースが広まったからです。彼女はてんかん を持っており、従来の薬を投与しても1日に50回も痙攣していました。彼女の5歳の誕生日の日に医師はもしかしたら6歳までは生きられないかもと話していました。そこで彼女の両親は娘の命のため、ありとあらゆる治療法を探し最後に行き着いたのが医療用大麻でした。コロラド州では大人用に対する医療用大麻は認められていましたが、当時の世論としては「医療用とはいえ子供に大麻を使うなんて!」といったものでした。けれど死ぬよりは良いだろうということで医療用大麻を用いることが州から許可がおり、スタンレイ兄弟という大麻農家からなるべくハイにならない大麻として THCをほとんど含まず、CBDが多く含まれた大麻を紹介されました。その紹介された大麻を用いて両親が自家製のオイル作って、シャーロットちゃんに与えると発作が消失し、シャーロットちゃんは命を繋げることに成功したのです。これを、CNNの医療部門のコメンテーターであり医療用大麻反対派であったサンジェイ・グプタ先生が知ったことでサンジェイは自分の意見を180度変え医療用大麻賛成派としてCNNでシャーロットちゃんのドキュメンタリー番組を作成しました。このドキュメンタリー番組がアメリカ全土のお茶の間に流れたことでてんかんの子供を持つ親達が医療用大麻解放のために立ち上がり、医療用大麻合法化運動が各州に広がった結果、医療用大麻や嗜好用大麻の合法化が加速され始めたという経緯があります。
2018年にはシャーロットちゃんが用いたような薬を製薬会社が「Epidiolex」という名前で売り出したことにより、医療用大麻は病院で用いられるようになりました。
この「Epidiolex」の販売を受けて日本でもCBDの研究が許される方向で議論されるようになり、現在では日本でもこのCBD製品はネットやお店で販売されています。ここで大麻って違法じゃないの?普通に流通しているのはおかしくない?と思い人もいると思います。実は大麻取締法で禁止されているのは大麻の花と葉だけなのですね。そのため大麻草の成熟した茎や種子から採れたCBDは合法となるのです。

 

 

7.日本とCBD大麻治療
ここでアメリカのCBDを用いた薬が効いているのなら、日本で作成されたCBD製品も効くのではないのかと思う方もいらっしゃるかも知れません。その通りです。
2018年の6月にてんかんを持つ生後6ヶ月子供を持つ親御さんから連絡を頂き、CBDを用いた治療をしたところ、発作が出なくなりました。
私はこのこと世間に広く広めてなくてはならないと思い学術論文として発表させて頂きました。しかし、加えてドラべ症候群の家族会の方々の協力を得て、聖マリアンナ医科大学の先生に日本に流通しているCBD製品がてんかんに効果があることを伝えました。そのこともあり、聖マリアンナ医科大学の先生方と公明党の秋野公造議員により大麻成分のてんかん新薬の国内臨床試験を始める方向で話が進んでいます。

 

8.大麻治療を妨害する法案「大麻使用罪」は本当に必要なのか
この研究や臨床試験が進めばやがて医療用大麻の使用も認められるだろうなと私も思っていたわけです。しかしそんな最中、2021年に大麻使用罪の導入議論が始まりました。これまでの話を聞いていた人はわかると思いますが、時代に逆行するような話です。私のような医師だけ出なく、依存症関係の活動をしている人たちも反対の声をあげ始めました。薬物依存で逮捕や補導されたことによって問題が改善したか、薬物使用者家族にアンケートをとったところ、全体の60%の人が司法介入によって状況は変化しなかったと回答し、逆に悪化してしまったという人は18%もあり、良くなったとかいう人はわずか12%でした。良くなった人より、悪くなった人の方が多いということですね。
だからこそ世界や国連では「非犯罪化しようね」という話になってきているわけです。さらにですね、司法介入を受けてつらいのは、薬物を使用した本人だけでなく家族もなんです。周囲の人もうつになったり、会えなくなってしまったり、家族内の争いが増えたり、仕事を止めないといけないこともあります。

 

 

9.なぜ厚労省はデメリットの方が明らかに大きい「大麻使用罪」を成立させようとするのか
ではなぜ厚生労働省はこのような時代錯誤な政策を立案しようしているのかというと、これは利権が絡んでいるかと私は思います。そもそも薬物を取りしまっている組織は2系統あることを皆さんご存じでしょうか。1つは警察の組織犯罪対策課、組対5課なんて言われたりもします。反社会組織や暴力団を取りしまる管轄であり、暴力団が薬物を扱っていることから、薬物を取りしまっています。もう1つはマトリという組織です。これは警察庁の組織ではなく、厚生労働省の職員で逮捕権と捜査権をもって薬学の知識をもっています。この2つの組織が競わされています。しかし、覚せい剤の使用者やヤクザの数もどんどん減ってきています。そこで皆さんこの考えませんか?「マトリに人員と費用割きすぎじゃない?」「もう警察だけでマトリは必要ないじゃないか」と考えられ、事業仕分けでマトリ自体が無くなる可能性があります。
そうなってしまうのが嫌なので、今マトリは自分たちの存在価値を示すことに躍起になっています。それが芸能人逮捕のときにテレビカメラと一緒に突撃したりすることに繋がっているのです。実際に「TVタックル」という番組でも、マトリの職員が有名人逮捕をマトリの組織の宣伝をすることに用いていることを言っているのですよ。マトリの部署を管轄しているのが厚生労働省の監視指導麻薬対策課というところです。今は田中徹さんという方が、監視指導麻薬対策課の課長として、300人のマトリを束ねています。このマトリというのは捜査して人を逮捕するのが好きなんじゃないのでしょうか。マトリの出した本では「俺たちは猟犬だ」と帯に書いてあるわけです。厚生労働省の監視指導麻薬対策課はマトリの人たちのことも考えて政策を提言します。先ほど言ったように、世界では大麻の非犯罪化に向かっています。アメリカのバイデン首相は「大麻ではもう逮捕しない、大麻での逮捕を終わらせる」と宣言しているわけです。このようにアメリカで大麻の逮捕を行わないという話が出たため、日本でも大麻で逮捕しないという話が出てしまうのではないか、そうなってしまえばマトリの存在意義が薄れてしまっているのではないかと厚労省の人は考えるのではないでしょうか。現在では大麻に使用罪は規定されていません。それをわざわざ厳罰化させる、時代に逆行するこの政策は、マトリの逮捕数を増やして「マトリは治安の維持にこんなにも貢献している」というマトリの存在証明を促そうとするために、ひねりだされたものではないでしょうか。

 

10.厚労省の偏向資料 マトリの利権のために正義を捨てた手法
この厚労省の監視指導麻薬対策課の人たちが、選んだメンバーで、大麻使用罪の有識者会議を行い自分たちに都合の良いプレゼンテーションを行って話し合いをしているわけです。そのため会議で示された資料内容の偏りがひどいです。一例を示すと、第2回の会議で「アメリカで大麻を合法化したコロラド州では、交通事故が増えています」と資料を配布していました。しかし、細かく調べてみると統計上で大麻を合法化した州もそうでない州でも増えているように見えているだけで実際は差がないことが学術的に報告されているわけですよ。また大麻運転は飲酒運転の1/10しかないこともアメリカの運郵省でも示しているわけです。飲酒運転のリスク増加は675%であるのに対し、大麻運転による全体の運転事故のリスク増加は5%しかなかったことも同様に報告されていますが、これらの情報は伏せて資料が配布されていました。日本での飲酒運転を規定するアルコールの血中濃度は国際的に比べて非常に緩いという問題には目をつむり、わずか5%の大麻のリスクを理由に厳罰化するのは合理的であるとは言えません。他にも諸外国の薬物政策における最高刑の資料に関して、現在の資料ではなく平成28年のカナダが合法化される前の資料を配布し、ロシアやサウジアラビア、中国、マレーシアなど、合法化されていない大麻に対する理解が進んでいない、指折りに大麻に対して厳しい少数派の国の政策ばかりを集めた資料をさも国際的な動向のように示し、日本の刑罰が国際的に緩いものと誤認させるような資料を提示していました。まさにエビデンス・ベイスト・ポリシーに基づいていない方針であるといえるでしょう。

 

 

11. 医療用大麻政策に対する提言とこれから
また厚労省の医療用大麻に対する政策にも問題点があります。なぜなら、監視指導麻薬対策課が定義する「医療用大麻」とは製薬会社がつくった保険診療の中で使えるものだけであり非常に狭い範囲のみでしか想定していません。例えば、先ほど紹介したシャーロットちゃんの用いた薬は含まれません。大抵の医療用大麻はサプリメントとして扱われる「代替薬品」です。このような医療用大麻を含むような定義をするべきであると思います。
国際的にはTHC濃度が0.2~1%より少ない大麻草は「大麻」として扱うのではなく、「ヘンプ」として扱い「ヘンプ」に関しては通常の農作物と同様に扱うという方針が採用されています。
日本では茎とか種とかで大麻草の部位で取り締まるかを決めていますが、THC濃度で定義を行って頂けると医療用としての可能性の広がり合理的なものであるといえるのではないでしょうか。イタリアではCBDの導入によって精神科の処方薬が10%削減されていると言われています。厚労省の現在提示した医療用大麻の定義では精神科の役に立てることは出来ませんが、国際的な指標と同様に「乾燥重量でTHC1%未満の品種及びその製品を除く大麻草の製品」と定義すれば、精神科の病気のみならず、他の多くの治療へ役に立つことがリスクを管理しながら行うことが出来ます。そのためには世論を喚起させて注目させることだと思うので、これらの話を聞いて興味を持った方はSNSや街頭などで主張して大麻の話をすることは大事なことなのだと喚起して頂ければなと思います。

 

質疑応答
石塚伸一:ありがとうございました。最近、井岡さんというボクシングの人が、ボクシング協会のドーピング検査で採取した尿から違法薬物が見つかってそれをボクシング協会が公表したと、この件を専門的な観点から説明して整理して頂けませんか?

正高佑志:年末にタイトルマッチの前の尿検査から、さっき言った大麻の成分であるTHCが検知されたのですが、井岡さんは大麻を使用したことを否定していました。井岡さんは日本内で流通している合法的なCBDのサプリメントを使用していただけで、そこにごく僅かに含まれるTHCが非常に厳しい感度でドーピング検査をやっているから引っかかったのではないかと述べられています。日本のCBD業者はTHCが含まれていること否定すると思いますが、日本では0.02%以下のTHCは含まれないとしてみなされます。アメリカのハーバード大学とその関連の病院の研究によるとTHCがほとんどないCBD製品を用いた場合でも尿検査でTHCが検出されることがあることが報告されています。僕自身もこのハーバード大学の論文が出た時に日本で流通しているCBD製品でも検査に引っかかってしまうと思ってツイートしていました。
これでCBD製品は危険なものを勘違いしないでください。例えば、甘酒とかでもアルコールは検出されますが酔っぱらったりしませんよね。それと同様に、日本のCBD製品を用いることで精神作用は得られません。これは厳しすぎるドーピング検査の問題であると言っておきたいです。

石塚伸一:ノンアルコールビールもアルコールがまったく含まれないわけではないですもんね。アルコール濃度が基準値以下であれば、例えばアルコール濃度が0.001%とかだったらノンアルコールになりますが、精密に調べればアルコールが検出さてしまう。ドーピングの検査というものは感度がとても良いものを使っているため検出されてしまうということなのでしょうかね。

正高佑志:まったくその通りです。ゼロカロリーのコーラとかも本当にカロリーがないわけではありません100mlあたり5キロカロリー以下であれば0と表示していいだけで、細かく検査すれば0キロカロリーではありません。

石塚伸一:科学的にエビデンスを測定するとなると検出限界というものを設ける必要があることを前提に話をしなければいけないということですね。先ほどの法的な限界のところの但し書きがあったところでTHCの濃度で科学的に測定しましょうという話ですよね。検出対象をきちんと科学的に見ましょうというわけです。

正高佑志:そうですね。

 

 

意見提供を終えた後の質疑応答では、現在の中学で行っている薬物教育は合理的で科学根拠に基づいていると言えるのか、大麻産業による経済的影響を受け産業競争の法政策観点でどの様にするべきか、CBDが効用の範囲、大麻の合法化、非犯罪化をどのレベルまで行うべきか、嗜好用の大麻を使用している人の中には快楽目的でなくカンナビノイドが足りないから一種の治療用目的として使用している人がいるのではないか、大麻が流通していないからこそ耐性があるかわからないことが大麻への恐怖に繋がっているのではないか、多様な生き方に対して拒否感を抱きやすい民族性があるのではないか、大麻の合法化によってアルコールや覚醒剤の使用量が減少し社会的な害が逆に少なくなるのではないか、大麻による社会全体の影響は小さいことから些細な問題に見えるが多様性や人の生き方に関わる人権の問題であるため、大きな問題として考えるべきではないか、など意見交換が行われました。

最後に石塚伸一教授から、政治的に都合の良い根拠に基づくことはあっても、そうでない都合の悪い根拠は隠した上で、非合理で時代錯誤な政策決定を行なっていることが多いため、俯瞰的に情報を捉え、形骸化していない根拠に基づいた判断、「エビデンスベイストポリシー」に基づいた判断を行う必要があることと、「エビデンスベイストポリシー」に基づいた政策を行なっているか見分ける力が求められることを述べられました。
続けて、大麻の問題を議論するにあたり先の展望が見えず、暗闇の中にいる様な暗い気持ちになることもあるかも知れないが、今回のセッションの様に共に語り合い、希望をもつことを忘れなければ、心の暗闇に光を灯すことも出来るであろうと述べ、セッションを締められました。

次回の記事をお楽しみに!

 

 

 

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シリーズ第5回ティーチイン 「薬物政策としての大麻政策─政策としての歴史的文脈と現在の論点─」

現在も大麻問題に関するティーチインは行われています。

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